日本で最初に(商業目的で)ビールが造られたのは1870年――今から143年前――のことであり、場所は僕の住む横浜だ。つくったのは、ウィリアム・コープランドというおっさん。驚くことに、彼はドイツ人ではない。ノルウェー生まれのアメリカ人だ。ドイツで5年間ビール造りを学んだらしい。つまり日本のビールの歴史は、本場とは距離を置いたところから始まったというわけだ。
その後ウィリアムのつくったブルワリーは現在のキリンビールへと引き継がれることになる。最初は瓶詰めだけだったビールに革命が起こったのは、1960年、すなわち缶ビールの誕生である。
さて、話を戻して工場見学の話に。京急の生麦の駅を降りて、灼熱地獄の中を歩くこと10分、キリン横浜ビアビレッジの案内板が見えてきた。すでに(二日酔いの)頭はくらくらで、背中から噴き出た汗がお尻にまで達している。ビレッジの中に足を踏み入れたときの感動、それはもう言葉では言い表せない。冷気が身体を包み込み、それまでのすべての苦悩を癒やしてくれる。そんな感じだったのだ。
バッジを渡され、すぐにツアーが始まった。製造過程の順にそって、それぞれの工程を見て回る。小学生の娘はまるで興味なさげで、「ちゃんと話を聞きなさい」と母親に怒られている。ザマーミロ。
まあ見学はあくまでもおまけであって、本命はここからだ。ホールに案内され、試飲が始まる。そう、「一番搾り フローズン<生>」である。
なんとも素敵なホールではないか。さっそく試飲に。おつまみも付いてくる。
もう半分以上飲んでしまった。横に置いてある缶は、お土産にいただいた『澄みきり』っていう5月に発売になった新製品。残念ながら冷えていない。家に帰って冷やして飲んでください、そういうことだそうだ。
と、事件はここで起こった。近くの席に座った40代前半と思しき夫婦が、コンビニのビニール袋を引っ張り出し、中からつまみを出して広げ始めたのだ。枝豆やチャーシュー、完全な宴会モードである。そしてしばらくするとキリンの係員がやってきて、「お客様、ここではお持ち込みの飲食はご遠慮させて・・・」と注意した。しかし敵もさる者、少々のことでは怯まない。それどころか逆に、
「こまるなあ・・・そういうことは、先に言ってくれないと」
僕は唖然とした。鈍感力、凄まじき。まるでキリンの方が悪いかのような言いぐさ。
まあ色々あったけれど、めでたく試飲を終え、我が家族は昼食を摂りにレストランへ。
森の中に現れた赤煉瓦造りの洒落たレストラン。素晴らしい! いざ店の中へ。
ここはドイツか、と思わせるような荘厳な造り。これもまた、素晴らしい!
と言うことで、今日は無事に、ビール工場の見学を終えたのであります。
今日感じたこと。
ビール造りへのこだわりは半端じゃない。日本人ならではの気配りもそうだ。しかし、例えば一番搾りがそうであるように、そのこだわりや気配りは、はっきりとした形では現れてこない。結果として表れるのは、とても微妙な違いにしか過ぎないのだ。でもそれにこだわるのが日本の美徳であり、その気持ちが伝わってこその”逸品”なのである。
しかしこういった美徳は、西洋的な合理主義の前に片っ端からつぶされつつあり、表面だけの、浅薄な価値観が席巻しているのも事実。残念で悲しいことだ。
でも今日の工場見学で僕は確信した。日本人、やっぱ素晴らしいわ、と。
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