今回は、誤用しがちな慣用表現についてのお話しです。それではさっそく間違い探しといきましょう。
以下の各例文には誤った表現があります。間違いを探して、正解も考えてみてください。
1.彼は話術の名人だ、口先三寸で聴衆を魅了してしまう
答え) 口先三寸 ⇒ 舌先三寸
※「口八丁」(口が達者なこと)と「舌先三寸」が混同したのでしょうか?
2.戦いの火蓋が切って落とされた
答え) 火蓋をが切って落とされた ⇒ 火蓋が切られた もしくは 幕が切って落とされた
※「火蓋を切る(ひぶたをきる)」と類語の「幕を切って落とす(まくをきっておとす)」が混同してしまったのでしょう。火蓋というのは火縄銃の着火口の蓋のことで、これを開けることを「切る」といい、落としてしまってはいけませんね。
3.次期社長候補として、彼に白羽の矢が当たった
答え) 白羽の矢が当たった ⇒ 白羽の矢が立った
※白羽の矢というのは、日本古来の風習あるいは伝承で、生贄を求める神が、望みの少女の家の屋根に人知れず立てたと言われるもの。
4.彼は同僚に足もとをすくわれた
答え) 足もとをすくわれた ⇒ 足を掬われた
※「足もとに火が付く」や「足もとを揺さぶる」等、他に「足もと」を使う表現があって、影響したのかもしれません。
5.その夜、彼は熱にうなされた
答え) 熱にうなされた ⇒ 熱に浮かされた
※「悪夢にうなされる」と混同したのでしょうか。
6.その報告を聞いて、僕は怒り心頭に達した
答え) 怒り心頭に達した ⇒ 怒り心頭に発した
※心頭とは心の中のことで、怒りが心の奥底から沸々と湧いてくることを言います。心頭は、あくまでも出発点なのです。
7.彼の意見はしごく的を得ていた
答え) 的を得ていた ⇒ 的を射ていた
※「当(とう)を得る」(道理にかなっているという意味の慣用句)と混同したのでしょうか? ただしこれは誤用ではないという意見もあります。でもあまりに有名な誤用の例なので、使うと笑われるのがオチでしょう。
8.「待ち時間が長すぎて間が持たなない
答え) 間が持たない ⇒ 間が持てない
※間違えたからといって恥ずかしいことではありません。なにしろ、平成22年度「国語に関する世論調査」では、本来の言い方とされる「間が持てない」を使う人が29.3パーセント、本来の言い方ではない「間が持たない」を使う人が61.3パーセントという、逆転した結果が出ているのですから。
9.なでしこジャパンには男子代表の雪辱を晴らして欲しいものだ
答え) 雪辱を晴らして ⇒ 雪辱を果たして
※これは「雪辱」という言葉の意味(屈辱を晴らす)を理解していれば、「晴らす」が重なった重言(じゅうげん)であることがわかると思います。
10.今やなでしこジャパンは、押しも押されぬ、世界の強豪チームである
答え) 押しも押されぬ ⇒ 押しも押されもせぬ
※おそらく類義語の「押すに押されぬ」が混同したものと思われます
以上、間違い探しはお終いです。いかがでしたか? 恥ずかしげもなく文豪を自称するみなさま方のこと、全問正解であったに違いありません。
では続けて、今度は意味を間違えやすい慣用表現をご紹介しましょう。それぞれの意味を考えてみて、それから答えを見てください。意外と間違って理解している表現があるかもしれません。
1.役不足
能力に対して、役目が軽すぎること
※能力が足りない、は間違いで、こっちは「力不足」と言うべきでしょう。
2.すべからく
(当然)すべきこととして
※「すべて」という意味ではありません。
3.さわり
話の中心となる部分。聞かせどころ
※冒頭部分、という意味ではありません。
4.憮然
失望してぼんやりしているようす
※ふてくされている様子ではありません。
5.檄(げき)を飛ばす
自分の主張や考えを広く人々に知らせて同意を求めること
※気合いを入れたり激励することではありません。
6.しおどき
物事を行うのに最も良いとき
※もうそろそろ諦めた方がいい頃合い、というのは間違いです。
7.気が置けない
心から打ち解けることができる
※油断できない、ではありません。そっちは「気を許せない」ですね。
8.敷居が高い
不義理・不面目なことなどがあって、その人の家に行きにくいこと
※高級料亭に入りにくい時などに使うのは誤りです。
9.姑息
一時しのぎ
※ひきょう、という意味ではありませんよ。
9.確信犯
自分の信念が正しいと強く思って犯す罪
※すっかり有名になってしまった、誤用の代表的な例ですね。「悪いことであると分かっていながらなされる行為」ではありません。
以上、いかがでしたでしょうか。初めて知った、という誤用の例もあったのではないでしょうか。心配しないでください。実は小生も、書きながら、自著で数多くの誤用をしていたことに気づいた次第です。
それでは今回は、これにてお終い。
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