2013年12月8日日曜日

ワールドカップのもう一つの魅力

 いよいよ組み合わせが決まりました。僕は「おー」っと声を上げずにはいられませんでした。なんとあのコロンビアが同組ではないですか。僕の脳裏に、あの’94の、熱く、そして狂気に満ちたワールドカップが想い起こされたのです。

 あの頃、南米に一人の天才サッカー選手がいました。金色の髪をなびかせ、ピッチの上で魔術師のようにボールを操る天才。彼の名はバルデラマ。優勝候補と言われたコロンビアは、そのほとんどのゴールを彼を介して奪っていたのです。しっかりとボールを保持して、3、4人ものディフェンダーを引きつけて放つ、あのマジックのように意表をついたパス。もはや芸術です。でも彼が率いるコロンビアは、前評判も虚しく、予選で敗退してしまいます。

 今でも忘れません、あのオウンゴール。それは初戦でルーマニアにまさかの敗戦を喫した後の、絶対に負けられないアメリカ戦でのことでした。ゴール前に放たれたクロスに足を伸ばしたアンドレス・エスコバル、無情にもボールはコースを変えて、ゴールに吸い込まれてしまいます。悲しいことにコロンビアのワールドカップはそれで終わってしまいました。でも本当の惨劇が起こったのは、その後です。

 当時は(今は知りませんが)コロンビアは異様なサッカー熱に包まれ、しかもとても治安が悪かったのです。敗退した選手たちは身の危険を察して祖国に帰ることを諦めました――ただ一人を除いて。その一人とは、そう、あのオウンゴールをやらかしたアンドレス・エスコバルです。彼は言いました。

「僕には、祖国に帰ってきちんと釈明する義務がある」

 
 残念ながら、それは美談になることはありませんでした。コロンビアの郊外のバーから出てきた彼に、無数の銃弾が襲いかかりました。英雄になるはずだったスポーツ選手が、たった一つのミスで命を奪われたのです。とても悲しい話です。でもサッカーというスポーツは、それほどまでに人々の心を鷲づかみにして離さない、想像以上に恐ろしくも魅力的なスポーツなのです。

 来年のワールドカップは、いったいどんなドラマを生むのでしょう? まさに筋書きのないドラマ、それは決して美談だけでは終わらない、ときには胸を締め付けるような悲しい物語をも紡ぐのです。

今は亡きエスコバル選手に、哀悼の意を込めて、合掌

 

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