2013年8月10日土曜日

お酒の話 3

 人と飲むのが苦手(嫌い)な私であるが、昔はそうでもなかった。むしろどちらかというと好きだった方かもしれない。とにかく羽目を外すのが楽しくてしょうがなかった。それがいつしか変わり始めたのだ。
 酔っ払うのと同じくらい酒の味を愉しむことを覚え、独り想像(妄想)を膨らませる幸せに酔いしれるようになった私にとって、あの愉しかった宴席が次第にノイジーで退屈な存在に変わり始めた。モルト・ウィスキーのせいである。
 夜ごと膨らんだ妄想は留まることを知らず、いつしか私に疑問を投げかけ始めた。

「いいのか、このままで?」

 商社の営業やマネージメントというものはいろいろな意味で厳しく、常に己の限界との戦いと言っても過言ではない。そんな世界に生きる者が疑問を持ち始めることは、ダムに空いた小さな穴と同じくらい致命的なのだ。穴はどんどん大きくなり、ある水準を超えると、もうどうにも手に負えなくなってしまう。

 3年前のある金曜日の夜、突然腹部に激痛を感じた。私にはわかっていた。神経性の胃炎に違いないと。そしてそれは、心が壊れて取り返しの付かなくなる前に私の自衛本能が発したシグナルに違いないと。

 その翌日、私は会社を辞めることを決意した。

 会社を辞めて何をするか、まったく考えていなかった。少なくとも再就職する気はさらさらなかった。じゃあどうやって生きていくのか? そんなことを考える余裕さえなかった。とにかく壊れかかった心を癒やし、最悪の苦しみから解放されることがすべてだった。

 心が癒えて先々のことを考える余裕が出来たとき、私ははたと考え込んだ。何をしたら良いのかまるで思い浮かばない。今さら会社勤めはこりごりだし、だからといって、他に生きる糧を得る術が思い当たらない。

 無い知恵を絞って色々と考え、iPhoneのソフトウェアでもつくろかなとか考えている時に、悪魔が囁いた。

(小説なんてどうだろう?)

 左脳を溶かし右脳を活性化させたモルト・ウィスキーのせいに違いない。その翌日から、私の試行錯誤の日々が始まった。それはビジネス文書以外書いたことのない、しかも読解力に欠け国語は常に2か3だった典型的な理系脳の、まさに苦悩の日々であった。

まだ続くかもしれません・・・

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